昭和24年(1949年)にスタートしたNHKのラジオバラエティーショー『陽気な喫茶店』の番組テーマ的な位置付けで、歌詞の通り、人々の心に「陽気な唄」を届けました。歌ったのは荒井恵子さん。NHKのど自慢の第一回全国大会で「南の花嫁さん」を歌って優勝し、NHKの専属歌手となった方です。
元々この曲は、戦時下の昭和17年(1942年)に高峰秀子さんの歌唱でレコード発売されていました。
前奏・間奏には作曲した米山正夫氏のアイデアで、ドイツの作曲家アイレンベルクの「Die Mühle im Schwarzwald」(森の水車、という意味)の旋律が引用されています。これは同盟国であるドイツの音楽を使うことによって検閲をすり抜けるためのアイデアでもあったようですが、残念ながらメロディーが米英調であるという理由で発売後4日で発禁処分を受けてしまいました。
米山氏は明治45年、現在の原宿、当時は隠田と呼ばれた地域の生まれ。現在では想像もできませんが、かつてそこは農村地帯で、今は暗渠になった渋谷川にはたくさんの水車が設けられていたそうです。葛飾北斎の冨嶽三十六景にも『隠田の水車』をモチーフしたものがあります。
戦後は、親友である歌手・近江俊郎さんの紹介をきっかけに『NHKラジオ歌謡』で「山小舎の灯」(この曲も昭和17年に規制により発売がかなわなかった経緯があります)がヒットし、「森の水車」も前述のラジオ番組およびラジオ歌謡で放送され、再び日の目を見ることになります。その後は美空ひばりさん作品をはじめ、多くのヒット作を手がけていきます。
世界各国の音楽、日本の民謡など、様々なジャンルやリズム要素を織り込んだ親しみやすい流行歌作りが、米山正夫氏の作風の特徴です。
【参考文献】
毎日新聞学芸部・著『歌をたずねて〜愛唱歌のふるさと』(音楽之友社)
近江俊郎・著『芸能界いろいろあらぁーな』(広済堂出版)
※国立国会図書館デジタルコレクション

