原曲は、1927年のアメリカのサイレント映画「The Garden of Allah」(邦題:受難者)の主題歌でした。映画のストーリーは北アフリカの修道院を抜け出した修道僧が、アラビアの砂漠である女性に出会い…というもの。1936年には『沙漠の花園』というタイトルでマレーネ・ディートリヒとシャルル・ボワイエの主演でトーキーとしても映画化されています。
昭和3年(1928)にこの曲を含む数曲のジャズソングが堀内敬三氏による訳詞、二村定一さんの歌唱でラジオ放送されたところ、とりわけ「アラビアの唄」は大きな反響を呼びました。本国アメリカではレコード化されずに曲としては埋もれてしまったため、日本でのみ大流行した外国曲です。
二村定一さんは明治33年(1900年)下関生まれ。少年時代から草創期の宝塚少女歌劇やオペラの舞台に夢中になり、わずか1歳年上ながらすでに浅草オペラの若手テノールとして活躍する田谷力三さんに憧れ、やがて自身も浅草オペラに身を置くことになります。
音楽教育を受けたオペラ歌手とは一線を画す、独自の歌唱表現と歌詞が明瞭に聞き取れる発声が功を奏し、ジャズシンガーとして昭和初期の音楽シーンを席巻、「アラビアの唄」は“日本で最初のジャズシンガー”二村定一を象徴する1曲となりました。昭和3年の「君恋し」も大ヒット、この曲は昭和36年のフランク永井さんによるリバイバルヒットもよく知られています。
【参考文献】
毛利眞人・著『沙漠に日が落ちて 二村定一伝』(講談社)
菊池清麿・著『私の青空 二村定一』(論創社)