懐かしい歌をギター生伴奏で

樋口一葉の同名の短編小説をモチーフにした流行歌です。

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十三夜

 
1941年(昭和16年)小笠原美都子
作詞:石松秋二
作曲:長津義司

河岸の柳のゆきずりに
ふと見合わせる 顔と顔
立ち止まり
懐かしいやら 嬉しやら
青い月夜の 十三夜

夢の昔よ 別れては
面影ばかり 遠い人
話すにも
何から話す 振袖を
抱いて泣きたい 十三夜

空を千鳥が飛んでいる
今さら泣いて なんとしょう
さよならと
こよない言葉 かけました
青い月夜の 十三夜

 

歌のモチーフは明治28年(1895)に発表された樋口一葉の名作短編小説と評される『十三夜』。

物語は主人公・お関が嫁ぎ先の家を飛び出し、両親の住む実家に戻って来たところから始まります。お関は自分に対する夫の冷酷な態度と、この辛い結婚生活を両親に訴え、離婚の決心を告げます。母親はお関に同情しますが、父親はお関の心情を理解しつつも、小さな子どものためにも考え直すようお関に言い含めます。

お関は涙をのんでそれを受け入れ、この先はもはや自分という存在はいなくなり、子どもを守る魂としてのみ生きようと考え、これまでどおりに夫と暮らしていくことを決意し、嫁ぎ先へと戻ります。帰りの道中、よびとめた人力車の車夫は偶然にも、かつてたがいに心ひかれ合っていたおさななじみの緑之助でした。

歌詞に描かれているのは、この二人の再会の場面です。偶然の再会をしたものの、ほんのひとときことばをかわし、また元の家へと帰ってゆく。「青い月夜の十三夜」のフレーズが美しい余韻を残します。それぞれの想いが交錯するもようを、まんまるでない十三夜の月が照らしている、というのがなんだか意味深く感じられます。

作曲者の長津義司氏(1904 – 1986)は田端義夫さんの「大利根月夜」や「玄海ブルース」、三波春夫さんの「チャンチキおけさ」など戦前から昭和30年代にかけてヒット曲を世に送り出しました。

【参考文献】
關良一・著『たけくらべ・十三夜要解』(有精堂出版)
久松潜一他・編『少年少女のための現代日本文学全集 2 二葉亭四迷・樋口一葉集』(東西文明社)
※国立国会図書館デジタルコレクション


投稿者:チャコ&チコの歌声喫茶
記事公開日:2021/10/15(金)