懐かしい歌をギター生伴奏で

晩秋から冬のはじまりへ。四季の“うつろい”の妙味が描かれる唱歌です。

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冬景色

 
1913年(大正2年)文部省唱歌
作詞・作曲者不詳

さ霧消ゆる 湊江の
舟に白し 朝の霜
ただ水鳥の 声はして
いまだ覚めず 岸の家

からす啼きて 木に高く
人は畑(はた)に麦を踏む
げに小春日ののどけしや
かえり咲きの 花も見ゆ

嵐吹きて雲は落ち
時雨ふりて 日は暮れぬ
もし灯火の漏れこずば
それとわかじ 野辺の里

 

晩秋から冬のはじまりへと、静かに、しかし確実に季節がうつりゆくさまが描かれている唱歌です。

一番の朝のみなとの情景は、霧がかる秋から、冷え込みが強まり霜の降りる季節へ。二番はのどかな小春日和、晩秋の畑での麦踏み。三番では秋の時雨(しぐれ)とすっかり日が短くなった里の様子が見てとれます。

花(春のうららの隅田川)」や「もみじ」のようにその季節の盛りを満喫する愛唱歌も良いものですが、この「冬景色」や「早春賦」に描かれる“うつろい”もまた、四季の愛唱歌の妙味といえるものだと感じます。

当時の教師向けの解説書にはこの歌の要旨が次のように述べられています。

季は初冬11月の候といへどまだ晩秋の名残がしみじみと味はれるのである。山野満目の蕭条はややすぎて、荒涼の氣人に迫り、霜白く風冷やかに、冬嶺孤松秀でて寒鳥枯木に叫び、四時の移り易(か)はる天の法則に、多少の注意と懐疑を抱き來る時分である。本課は郊外田園の初冬の景を詠じて、其の美感を與(あた)ふるを目的とす。

- 文部省編 尋常小学唱歌教材解説 第5編 第5学年用
(森山保・著、広文堂書店・刊、大正2年)

満目蕭条(まんもくしょうじょう)
見渡すかぎりがものさびしいさま

冬嶺孤松秀(とうれいこしょうをひいず)
冬の嶺で(他の草木が枯れ果ててしまった中)松がひとり緑を誇っているさま
*『四時歌』陶淵明(とうえんめい)

寒鳥枯木(かんちょうこぼく)
古木に冬の鳥がさびしげに鳴いている(さびしさをあらわす叙景)
*『述懐』魏徴(ぎちょう)

四時(しじ、しいじ)
四季

今の暦でいえば12月頃。「四時の移り易はる天の法則」すなわち四季の移ろいを多少の戸惑いを感じつつ冬を迎える頃の景色を味わいましょう、という唱歌であることがよくわかります。


投稿者:チャコ&チコの歌声喫茶
記事公開日:2023/11/20(月) 
タグ:1913年  大正2年  文部省唱歌