サトウハチロー氏のエッセイ『見たり聞いたりためしたり』を映画化した作品の挿入歌です。エッセイは昭和21年から10年にわたって新聞「東京タイムズ」で毎日連載されました。
曲は服部良一氏のアメリカ音楽に対する深い造詣と無邪気な憧憬がそのまま体現されたような、ミディアム・スローテンポのラブソングです。もしこの曲がラジオから英語歌詞で流れてきたら、ジェローム・カーン作曲のスタンダードナンバーかしらと思う人がいてもおかしくはないでしょう。
金沢蓄音器館のウェブサイトには、この歌の誕生にまつわる興味深いエピソードが綴られています。それによると昭和22年の早春、服部良一氏が兼六園周辺を歩いている時にふたつのメロディーが浮かび、それが「胸の振子」と「東京の屋根の下」だったのだそうです。
戦中の表現活動の制約から解放された天才作曲家の頭の中から、とめどなくリズムとメロディーがあふれだすさまが見てとれるようなお話です。